ラグジュアリーブランドセレクト業界を牽引する株式会社バーニーズジャパンは、洋服やアクセサリーといったファッションアイテムを中心に取り扱うスペシャリティストア「バーニーズ ニューヨーク」を展開し、卓越した顧客体験を提供する企業として知られています。同社は高品質な商品の取り扱いに留まらず、一人ひとりのお客様に寄り添ったパーソナライズされたサービスを企業理念に掲げ、独自のブランド地位を築いてきました。
また、従業員満足度の向上はお客様へのサービスの質を高める鍵であると考え、育児や介護などライフステージの変化に対応した柔軟な勤務制度を導入しています。さらに、株式会社バーニーズジャパンは、障害者雇用が広く注目される以前からその重要性を認識し、積極的に取り組んできました。社員一人ひとりの特性に応じた業務や役割を整え、障害のある社員が自分らしく活躍できる場を築いてきた実績は、業界内でも高く評価されています。今回は、障害者採用の取り組み、その背景、そして今後の展望について、人事部門へのインタビューを通じて探ります。
栗林 遼 様(くりばやし りょう)
2014年に株式会社バーニーズジャパンに新卒入社。同年店舗配属後、人事チームに異動し、新卒採用、中途採用、障害者採用などの採用業務全般を担当。同時に人的資本経営や働き方改革にも注力し、副業推進やリスキリング、テレワークなどの柔軟な働き方の整備を推進。現在は人事チームリーダーとして、採用戦略の企画・実行を担い、同社の持続的な成長と多様な人材の活躍を支援している。
Qまず、株式会社バーニーズジャパン様について、どのような会社なのか簡単にご紹介いただけますでしょうか。
A私たちバーニーズジャパンは、ラグジュアリーブランドを中心に国内外よりセレクトした商品を展開しているファッションブランド「バーニー ニューヨーク」を運営する会社です。「バーニーズ ニューヨーク」というブランド名の通り、もともとは1923年にアメリカ・ニューヨークで創業された老舗ブランドです。
1989年に日本法人として設立され、以来30年以上にわたり、ラグジュアリーファッションセレクトの小売業界で独自の地位を築いてきました。当社の特徴は、ファッションだけでなく、ライフスタイル全般を提案する商品展開にあります。メンズ・ウィメンズのアパレルから、ジュエリー、ギフトアイテム、インテリア用品まで、国内外のデザイナーズブランドやオリジナル商品を幅広く取り揃えています。
さらに、最近はアートに関する展示や事業も始めました。この取り組みにより、ライフスタイルのさらなる広がりをお客様に提供しています。また、全国に展開する9つの拠点(旗艦店やアウトレットを含む)を中心に、オンラインストアでもお客様に特別なショッピング体験を提供しています。私たちの店舗では、商品だけでなく空間そのものも楽しんでいただけるような設計がされています。お客様にとって「また行きたくなるような場所」を目指し、サービスと商品ラインナップの両面で最高の価値を追求しています。
Q栗林様の社内での役割や業務内容について、具体的に教えていただけますか。
A私は2014年に株式会社バーニーズジャパンに新卒で入社しました。最初は接客販売のポジションで、銀座の店舗にてメンズ・ウィメンズの両方を担当していました。そこでの経験を経て、新卒1年目の段階で本社の人事部門に異動となりました。それ以降は約10年にわたり、人事チームで採用業務を中心に担当しています。現在は、新卒採用だけでなく、中途採用や派遣社員の雇用、さらにはプロフェッショナル人材に関しての業務委託の締結など、障害者採用のみならず、人材に関わる業務全般に携わっています。
また、採用以外にも福利厚生や勤怠管理、労務管理全般など当社に関わる人材まわりの日常的な対応も、担当業務のひとつです。具体的には、全社員のキャリア形成をサポートしながら、働きやすい環境を整えるための施策を企画・運営することが主な役割です。メイン業務である採用担当として特に意識していることは、当社の文化や価値観に合った人材を見極めることです。バーニーズジャパンという企業においては、個々のスキルや経験だけでなく、会社のビジョンに共感し、長期的に活躍していただける方を採用することが極めて重要になります。そのため、面接の際には応募者の方の価値観や将来のキャリアビジョンについてミスマッチがないように深く伺うよう心掛けています。
Q株式会社バーニーズジャパン様では、障害者雇用をはじめ、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)について、どのようにお考えでしょうか。シンプルにお聞かせいただけますと幸いです。
A 私たちは、ダイバーシティ(多様性)を尊重し、インクルージョン(包摂)を実現することを企業の重要な使命と考えています。特に障害をお持ちの方々に対しては、「特別扱いをしない」「必要な配慮はするが、遠慮はしない」という理念を大切にしています。配慮をしつつも、一人の自立したメンバー、対等な仲間として会社の一員というマインドで働いていただく環境を整えることを目指しています。この理念を実現するために、社員一人ひとりの特性や能力に応じた業務のマッチングと設計を行っています。
例えば、業務を開始する前に個別のスキルや希望を把握するためのヒアリングを実施し、定期的な面談を通じて業務内容の調整を行っています。また、適切なサポートを提供することで、障害をお持ちの方が自分の力を最大限発揮し、周囲のメンバーと調和を保ちながら働ける環境づくりを進めています。当社では、性別、年齢、国籍、障害の有無に関係なく、誰もが平等にチャンスを得られる環境を目指しています。一人ひとりが自分らしく働ける職場を実現することが、企業としての成長と社会貢献に繋がると信じています。
Q障害のある方を含め、女性社員や幅広い年代の方々が多く働かれていると伺っています。栗林様が労務管理を行う上で、特に大切にされているポイントについて教えていただけますでしょうか。
A私たちが労務管理において特に重視しているのは、従業員一人ひとりのライフステージや個々の状況に寄り添った支援です。出産や育児、介護といったライフイベントは誰にでも起こり得るものであり、そこには自身の体調管理も含まれます。こうした状況に柔軟に対応できるよう、短時間勤務制度の活用や勤務シフトの柔軟な調整、各種休暇の取得推進など、社内制度を整備し、従業員が安心して働ける環境づくりに取り組んでいます。
また、定期的な面談やヒアリングなど会話をすることで職場における課題や不安の早期解消に繋がるようなコミュニケーションができる職場の雰囲気にも注力しています。加えて、特定の個人に業務が集中しすぎないよう配慮し、チーム全体で業務を理解し進められるような組織を目指していることも大切にしているポイントのひとつです。。仮に急な休みが発生した場合でも、チーム全体で柔軟にカバーできることで、従業員が安心して働ける環境を実現するとともに、業務効率の向上にも繋がっています。
Q外部からの印象ですが、貴社は小売業の中でも働きやすい環境が整っているように感じます。特に、ワークライフバランスの実現や有給休暇の取得促進といった取り組みについて、具体的なお考えや実施されている施策を教えていただけますでしょうか。
A当社では、ワークライフバランスの実現を重要な経営課題の一つと位置付けています。特に、有給休暇の取得率向上やノー残業デーの設定など、社員が仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境づくりを進めています。有給休暇の取得率も全社で90%を超えています。オンオフを分けることで心身の回復に留まらず自分の好きな時間を過ごし、そこで得られる学びや刺激が仕事にも良い影響を与えると考えています。
例えば、旅行先での新しい体験や趣味に没頭する時間が、クリエイティブな発想や業務に活かせる気づきを生むきっかけとなることもあります。また、繁忙期以外の時期には特に柔軟な勤務体制を採用しており、テレワークや時差出勤制度も、部署や業務の特性に応じて導入しています。こうした取り組みは、小売業界特有の業務負担を軽減し、社員一人ひとりがより働きやすい環境を享受できるよう支援しています。
Q障害者雇用についてですが、具体的にはどのような部署で、どのようなお仕事を担当されているのか、ご活躍の様子を教えていただけますか。
A当社では、障害をお持ちの方々が幅広い部署で健常者と同じ環境で活躍しています。具体的には、本社の総務人事といったコーポレート部門、オンラインストア運営などの部署で、それぞれの専門性やスキルを活かしながら業務に取り組んでいます。また、店舗では接客業務や店舗運営のサポートを担当しており、直接お客様と接する場面でも力を発揮しています。
特に、店舗での接客業務に従事するスタッフは、ファッションや商品知識を深めながら、お客様に寄り添ったサービスを提供しています。一方、本社では、経営の数字管理やデータ分析、オンラインストアの受発注管理業務など、デスクワークを中心に活躍中です。これらの業務は、一人ひとりの得意分野や適性を丁寧に見極めた上で配属されており、障害をお持ちの方が最大限能力を発揮できるような環境を目指しています。
また、当社の強みとして、「障害者雇用だからこの部署で働かなければいけない」という固定観念がないことが挙げられます。この柔軟な姿勢により、全社的にさまざまな部署への配属が可能である点は、私たちの強みの一つと言えるかもしれません。障害のある社員の中には、入社から10年以上勤務し、現在はチームリーダーとして日々業務効率化や生産性向上に尽力している者もおります。。このように、障害の有無にかかわらず、能力や意欲に応じてキャリアを積み上げられる公平な環境が、当社の特徴であり、最大の強みです。当社は「障害者雇用」の枠を超え、すべての社員を対等に扱うフラットな組織文化を大切にしています。
Q障害者採用の面接において、特に丁寧に確認されているポイントはどのような点でしょうか。
A面接の場では、応募者の能力や業務における物理的な配慮事項の確認に加え、その方のマインドセットや意欲を特に重視しています。当社は、障害の有無に関係なく、仕事に対する姿勢や考え方が何よりも重要だと考えています。当社の仕事はルーティン作業だけでなく、突発的な対応や業務改善、新しい取り組みに対する積極性が求められる環境ですので、応募者の方がこうした状況にどのように適応し、自身の力を発揮できるかを丁寧に確認しています。
また、応募者自身が自分の特性をどのように捉え、どのように仕事に活かそうとしているかという意識も、重要な判断基準となっています。「特別扱いしない環境」で働くことを基本方針としているため、過度な配慮や特別な要求を求めるのではなく、同じ組織の一員として自律的に業務を遂行することを大切にしています。これは、当社が特例子会社ではないという点だけでなく、社員に自律性や柔軟な適応力を求める理由にも繋がっています。
Q障害者雇用で入社された方の中には、長期間にわたり就業を継続されている方もいらっしゃると伺っています。こうした方々に共通する特徴や成功の要因について、人事の視点からお聞かせいただけますでしょうか。
A当社で長期間活躍している従業員には、いくつかの共通点がありますが、特にひとつを上げるとするならば、物事に前向きに取り組む姿勢と、変化に柔軟に対応する力があるということです。仕事上の失敗や人間関係の悩みは完全になくすことはできませんので、困難に直面しても冷静に状況を捉え、次に活かす行動を取ろうとするマインドが重要だと個人的には思います。
また、仕事はチームで取り組むものですので、周囲と信頼関係を築きながら、自らの役割を果たす姿勢が重視されています。他者と調和しながら力を発揮することで、互いを尊重する風土が生まれ、その結果、業務の質や効率が向上します。日常的なコミュニケーションを通じて相手の立場を理解し合い、助け合える環境そのものが、心理的安全性(自らの居場所感)を育む大きな要因となっていると感じます。困難なタスクにも安心して挑戦できる風土があることで、社員一人ひとりの自己肯定感が高まり、仕事への意欲をさらに引き出す効果があります。このような文化や姿勢が重なり合うことで、従業員が長期間にわたり安心して働ける環境が形成されているのだと考えています。
Q障害のある方や育児中の方、また介護などで働き方に制約がある社員の方々に対して、貴社ではどのような支援体制や柔軟な働き方の取り組みを行っているのか、具体的にお聞かせいただけますか。
A当社では、育児や介護など、ライフステージの変化に対応できる柔軟な働き方を積極的に導入しています。短時間勤務制度やフレキシブルなシフト調整に加え、看護休暇や介護休暇を最小1時間単位で取得できる制度を導入し、従業員が家庭と仕事を両立しやすいと思える状態をを目指しています。また、通勤が難しい場合や業務効率性を優先する場合などにはテレワーク勤務(本社のみ)を提案するなど、状況に応じた働き方の選択肢を用意しています。
これらの取り組みは、単に業務効率を高めるだけでなく、従業員の精神的な安定や満足度を向上させるための重要な施策です。さらに、サポートが必要と感じられる従業員については、一人ひとりの状況を正確に把握するために、定期的な面談やヒアリングを実施しています。これらの面談は可能な限り対面で行い、問題が発生した際には迅速に対応し、必要な支援を提供する体制を整えています。こうした取り組みは、企業競争力の強化にも繋がると考えており、今後も引き続き力を入れてまいります。
Q現在、人事部門で抱えている課題や、今後実現していきたいとお考えの施策があれば、差し支えない範囲で教えていただけますでしょうか。
A 現在、人事部門が直面している課題の一つは、就労人口の減少に伴い、時代の変化に対応した働き方改革を進めることです。特に、社員一人ひとりが自身のキャリアを主体的にデザインできるよう支援することが求められています。そのため、当社では副業の解禁やリスキリング(再教育)の推進に注力しています。これらの取り組みは、単なる収入増加やスキルアップの手段にとどまらず、社員が多様な経験を通じて新たな価値を生み出す機会を提供するものです。
こうした機会は、弊社で働くことのメリットに直結する重要な要素と考えています。また、社員が会社に依存せず、自律的なキャリアを築けるようサポートすることも、人事部門に求められる重要な役割の一つです。副業を通じて社外で経験を積むことは、社員自身のスキルや視野を広げるだけでなく、最終的には当社での新たな貢献にも繋がります。同様に、リスキリングの機会を提供することで、社員が新たな専門性を獲得し、変化の激しい社会や業界に対応できる人材へと成長することを目指しています。特に、当社のようなファッションの小売業界では、従業員満足度がそのままお客様へのサービスの質に直結しますので、従業員が安心して働き、自己実現を目指せる環境を整えること、そして優れた人材が当社を選び続けてくれることが、長期的な会社の成長に繋がると考えています。このような好循環を生み出すため、人事部門として積極的に施策を推進し、働きやすい環境の改善に努めてまいります。
Q話題が変わりますが、栗林様のプライベートについて少しお聞きしたいです。お休みの日には、どのようにリフレッシュされていますか。
A 休日は、家族や友人と過ごしたり、旅行に出かけたりして、心身をリフレッシュすることを大切にしています。どちらかというとアクティブに時間を過ごすことが多く、新しい環境に触れることでエネルギーをチャージするスタイルです。一方で、普段の業務では多くの人と関わる機会が多いため、自分だけの時間を確保することも重視しています。この時間は、心のバランスを保つために欠かせないものです。国内外の一人旅や身近な都内の散歩などを通じて自分自身と向き合うことで、精神的なエネルギーを回復させています。
直近では、週末を利用してシンガポールや出雲大社への旅を楽しみました。現地の文化や風景に触れることで、新鮮な刺激を受けながら自由な時間を満喫できたことは、とても貴重な体験でした。特に未開の地への旅は非日常的な体験を提供してくれると同時に、心に潤いを与え、素晴らしい思い出を残してくれます。こうしたプライベートな時間の充実は、日々の業務におけるモチベーションの維持や向上に大きく繋がっています。アクティブに過ごす時間と、一人で静かに過ごす時間。この二つのバランスを保ちながら、自分に合ったリフレッシュ方法を見つけることが、私にとって大切なテーマです。
Q最後に、これから障害者採用に挑戦しようと考えている方々に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
A これから障害者採用に挑戦しようと考えている皆様へ。ぜひ「自分らしさ」を大切にしながら、前向きにチャレンジしていただきたいと思います。人生100年時代と言われる今、働く時間は人生の大きな部分を占めます。その中で、自分の特性や能力をポジティブに捉え、活かせる場所を見つけることがとても大切です。苦手なことを無理に克服しようとする必要はありませんし、努力が評価されない職場にとどまる必要もありません。自分の障害特性を活かせる業務を提供してくれ、自分にとって風通しの良い職場を選ぶことが、長く充実して働くための重要なポイントです。
最初は緊張や不安を感じることもあるかもしれません。しかし、それは誰にでもあることです。大切なのは、「今の自分だからこそできること」を探し続ける姿勢です。そして、「これだ」と思えるものを見つけたら、一歩ずつ前に進んでみてください。その積み重ねが周囲との信頼関係を築き、新たな可能性を広げるきっかけになります。あなたの勇気ある挑戦が、未来を切り拓く大きな一歩となることを心より応援しています。
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