呼吸できる場所を探して —精神障害と、“心の炎症”を抱えながら働くということ—
今回のコラムでは、精神的な不調や障害を抱えながら働くということについて、私自身の経験も交えながらお話ししていきます。
精神障害やメンタルヘルスの不調は、特別な人だけのものではありません。それは、日々のストレスや過労、職場や環境との相性が悪いことなど、さまざまな原因が積み重なって起きる、心の"炎症"のようなものです。
身体に炎症が起きたとき、赤く腫れたり痛みを感じたりするように、心もまた、限界を超えて負荷がかかり続けると、目には見えないけれど確実にダメージを受けます。本当は心が悲鳴をあげているのに、「まだ頑張れる」と自分に言い聞かせてしまう。「周りに迷惑をかけたくない」「自分が弱いだけじゃないか」「ここで立ち止まったら、今までの努力が無駄になる気がする」「もっと頑張っている人もいるのに、自分だけが甘えているのではないか」と、いつの間にか自分を責めるようになります。
自分の心が限界に近づいていることを認められず、「大丈夫」という言葉で無理やり乗り切ろうとしてしまう——そんな経験は、障害者手帳を持っているかどうかに関係なく、誰にでも起こり得ます。
このコラムでは、そうした精神的な不調を、"心が無理を重ねて傷ついている状態"としてあらためて見つめ直し、どうすればその痛みに早めに気づき、自分に合った働き方や職場環境を見つけられるのかを、一緒に考えていきたいと思います。無理をして働き続けることが「強さ」なのではなく、無理なく続けられるための「仕組み」や「環境」を整えることこそが、結果として、職業人生を穏やかに過ごすための「知恵」になる——そんな視点を共有できればと思います。

第1章:なぜ「心の炎症」に気づきにくいのか——“頑張り続けることが美徳”とされる社会で
「無理してでも働くのが当たり前」
「弱音を吐くのは甘え」
「期待に応えることが大人の責任」
——残念ながら、日本の労働社会にはこうした非合理的な価値観が今も根強く残っています。私自身も、その価値観の中で長く生きてきました。
十数年前、私は過労と過度なストレスから重い病を患い、生死の境をさまよいました。幸いにも命を取り留めることができましたが、その代償として身体には後遺症が残り、現在は身体障害者手帳を所持しています。当時の私は、周囲の期待に必死で応えようとして、自分自身の体や心の悲鳴を無視し続けました。
今振り返れば、あのとき無理をして会社に行かなければ、他人の価値観や期待に合わせて無理をしなければ、もっと自分自身の価値観や感覚を信じて、心と体の声に正直になっていれば——そんな後悔がよぎることも、少なくありません。
そもそも、お金で健康を買うことはできません。より良い生活を送り、安定した生活設計をするために働くのに、心身の不調によって仕事そのものができなくなってしまうのは本末転倒です。健康が崩れてしまえば、どんなにお金があっても意味を成さなくなってしまいます。
精神障害やメンタルヘルスの不調——心の"炎症"も、身体の病気と本質は同じです。初めは小さな痛みや違和感で始まり、徐々に強い負荷を感じるようになり、限界を超えた瞬間に目に見える形で現れます。ただ、身体の病気と違うのは、心の不調は目に見えにくく、自分でも気づかないふりをしてしまうことが多いという点です。「自分はまだ大丈夫」「疲れているだけ」と言い聞かせるうちに、いつの間にか取り返しのつかない状態になってしまうこともあります。
だからこそ大切なのは、心の炎症に早く気づくこと。疲れや不安、不調の小さなサインを無視せず、自分自身に素直になることです。それは決して「甘え」ではありません。むしろ、自分の職業人生を長く穏やかに、そして安定して支えるための冷静で知的な判断だと私は思っています。心の炎症に気づくこと。それが「自分に合った働き方」を見つけていくための、確かな第一歩になるのです。

第2章:「自分基準」で働き方を再設計する——“守る”という選択肢を持つために
社会や職場に自分を合わせ続けることが、これまでの"正解"とされてきました。特に日本では「頑張る人」が称賛され、会社への強い忠誠心がある人が優遇される風潮があります。その空気の中で、無理を重ねてしまう方がとても多くいます。
しかし、本当に必要なのは、「無理を続ける力」ではありません。精神的に追い込まれているときこそ必要なのは、「自分を守る判断力」と「自分を最優先にする視点」です。精神に障害を抱えている方の中には、責任感が強く、まじめで、周囲を思いやる"優しさ"を持った方が多いように感じます。自分より他者、自分より会社、自分より"社会適応"を優先してしまう。その優しさが裏目に出て、自分をすり減らしてしまうのです。
だからこそ、「断る勇気」を持っていいのです。自分を守るために「選ばない」という選択肢を持っていいのです。誰にでも好かれようとしなくていいし、何よりもまず「自分自身を嫌わないこと」を大切にしてほしいと思います。
そして、幸いなことに、令和の時代に入り、首都圏 障害者雇用 求人の現場も少しずつ柔軟性を増してきています。特に都内のIT業界や外資系企業では、多様性を重視するDE&I推進の流れが強まり、ウェルビーイング(心身の健康重視)を大切にする企業文化が広がっています。ここでは、自分を守りながら働くために活用されている、現代的で現実的な働き方の工夫例をいくつか紹介します。
・朝の体調が整いにくい方
→「時差出勤」や「午前中のみの短時間勤務」、「ハイブリッドワーク(在宅×出社の組み合わせ)」など、勤務時間の柔軟な調整
・音や光など感覚刺激に敏感な方
→「静かな座席配置」や「刺激の少ない場所への着席希望」など、作業環境の工夫
・会話や対面コミュニケーションに強い負担を感じる方
→「チャットやメール中心の業務連絡」など、非対面型のコミュニケーション体制
・体調や気分に波がある方
→週3〜4日勤務からスタートし、様子を見ながら日数や時間を増やす雇用設計
・明確な指示が安心につながる方
→「担当業務の範囲が明確なポジション」や「繰り返し業務中心の職務」を検討
・集中力やエネルギーが途切れやすい方
→「定期的な小休憩の導入」や「会社との事前相談による休憩タイミングの調整」
これらの工夫は、誰かに特別扱いされるためのものではありません。むしろ、「自分が安定して働き続けるため」に必要な"合理的配慮(障害のある方が働きやすくするための環境調整)"であり、合理的な仕事の設計です。
自分を第一に考えることは、わがままではありません。それは、"生き抜くための選択"であり、自分自身との信頼関係を築く行動です。自分を守ることから、働き方は再構築できます。そしてそれは、けっして「逃げ」や「弱さ」ではなく、「持続可能な働き方」への入口なのです。

第3章:“自分に合った働き方”はどう見つける?——苦しさを分解する技術から始める
「自分に合った働き方を見つける」と言われても、どうすればいいのかわからない——。
精神障害のある方にとって、「働く」という行為そのものが、時に遠くぼやけてしまうことがあります。
たとえば、
「うつ病で朝起きるのがつらい」
「双極性障害で気分の波が激しく、一定の生活リズムが保てない」
「不安障害やパニック障害では、満員電車に乗ることが強い恐怖と結びついている」
「発達障害では、音や光、においなどの刺激に過敏で、職場環境そのものがストレスになってしまう」
こうした"見えないしんどさ"がある中で、自分にとって「働ける環境」とは何かを見つけていくには、まず"苦しさの中身"を細かく分解してみることが重要です。「どんなときに負荷が大きくなるのか」「何をするとエネルギーを消耗するのか」「どんな働き方なら自分にとって自然か」——そうした問いを、感情ではなく、なるべく具体的な場面や行動で言語化していきます。
完璧な職場は存在しません。でも、「少しだけマシな条件」や「ちょうどいい妥協点」を探すことはできます。たとえば「この時間帯なら安心できる」「この頻度なら無理がない」など、自分の感覚で現実的な"安全ライン"を見つけていくことが、第一歩になります。
重要なのは、最初から100点を目指すのではなく、70点くらいの力で無理なく続けられる状態をつくること。7割の力で働ける環境を整えることで、長く働き続けられるための安定した土台が生まれます。さらに、自分の働きやすさや苦手な状況を、メモや日記、アプリなどで記録してみることも有効です。体調の波や環境との相性、達成感を感じた瞬間など、小さな手がかりを積み重ねていくことで、自分の「働きやすさのパターン」がだんだんと明確になっていきます。
首都圏では、スキルベース採用(能力重視の評価)を取り入れる企業も増えており、学歴や経歴よりも、あなたの得意なことや興味のあることを大切にしてくれる職場も見つけやすくなっています。「自分がラクに呼吸できる場所はどこだろう?」——それは、どこかに"用意されている場所"ではなく、自分自身の理解と選択によって、少しずつ築いていく場所なのです。

第4章:「長く働ける人」は特別な人じゃない——継続の鍵は“仕組み”にある
「長く働ける人って、やっぱり強い人だったり能力が高い人なんだろうな」
「病気がないから続けられるんだろう」
「メンタルが強い人しか無理なんじゃないか」
——そんなふうに思っていた時期が、私にもありました。
でも、それは誤解でした。長く働くために本当に必要なのは、「強さ」や「根性」ではありません。必要なのは、"仕組み"です。自分を守れる環境。柔軟に対応できる制度。安心して話ができる人間関係。そうした土台があるだけで、働き方は大きく変わってきます。
・勤務時間の調整(時短勤務やフレックスで、通院・体調の波に柔軟に対応できる)
・定型業務への配属(業務がルーチン化されており、負担が少なく安定して取り組める)
・感情的に安全な職場文化(叱責や圧力がなく、安心して報告・相談ができる)
・体調や気分に波があることを許容する風土(コンディションの変動に対する理解と受容がある)
・急なお休みや在宅ワーク 障害者にも対応できる柔軟な体制(体調不良時も勤務継続の選択肢が確保されている)
・困ったときに相談できる社内サポート窓口や伴走支援(体調・人間関係などの悩みを気軽に相談できる仕組みがある)
こうした「仕組み」が整っていれば、特別な力がなくても、人は長く働き続けることができるのです。そして何よりも大事なのが、「7割の力で働ける環境」。常に100%の力で走り続けるのではなく、余力を残して働くという視点。それは決して手を抜くことではなく、"持続可能な働き方"のための知恵です。
ただし、「仕組み」だけがすべてではありません。たとえば、自分が心から「やってみたい」と思えること。少しでも「好き」や「得意」だと感じられる業界・職種。自分の内側から湧いてくるパッションや好奇心も、続ける力になります。
一方で、「特別にやりたいことはない」という方もいるかもしれません。それでも、たとえば「業務の習熟度を上げたい」「昨日より少し効率的にこなせたら嬉しい」といった、日々の仕事の中に小さな目標や楽しみ、成長を見出すこと——。そうした"地味だけど前向きな姿勢"が、働く上での支えになることもあります。
つまり、「頑張らないと働けない職場」ではなく、「頑張らなくても働き続けられる場所」や、「自然と前向きになれる仕事」を自分自身で選んでいく。その視点があれば、働き方はもっと自由に、自分らしく、しなやかに設計できるはずです。

第5章:揺れても、大丈夫——今を起点に働く未来を描く
「もっと早く休んでいれば」「助けを求めていれば」——
後悔は、誰の心にも残ります。過去の判断や選択を責めてしまうこともあるでしょう。でも、どれだけ考えても過去は変えられない。そして未来もわからない。だからこそ、変えられるのは“今”だけなのです。精神障害者保健福祉手帳を取得するほどまでに、心身が追い詰められてしまった。もっと早く立ち止まっていればよかった。誰かに頼っていればよかった。自分に優しくすることを、自分に許してあげればよかった——そんな後悔を抱える方は少なくありません。
でも、それは決して“弱さ”の証ではありません。どんなに社会的に成功している人でも、後悔のない人はいません。地位や名声、お金があっても、「あのとき違う選択をしていれば」と思う瞬間はきっとあるのです。そして、たくさんのお金があるように見える人でも、お金の不安をまったく持たない人はいません。見えない心配や葛藤は、誰の中にもあります。精神障害を持つ方の中には、「すべてができなければ意味がない」「できない自分は価値がない」といった“0か100か”の思考に苦しんでいる方も多いでしょう。
ですが、人生は白か黒かではありません。グレーの中で揺れながらも、少しずつ整えていけるものです。だからこそ、今日できたことに目を向けてください。「朝起きられた」「支度して外に出られた」「通院できた」「出社できた」「午前中だけでも集中できた」「資料を1ページだけ仕上げた」「上司に『今日は調子が悪いです』と伝えられた」——。それらは、昨日の自分ができなかった、確かな前進です。今日一日を過ごせたという短いスパンでの成功体験に目を向けることは、精神障害を持つ方にとって特に大切です。未来を見通すことが難しいときこそ、「今」を積み重ねる力が、生きる土台になります。無理をせず、誠実に、自分を守りながら働くという選択肢があります。
このコラムで私が一貫してお伝えしたかったのは、その重要性です。「無理して働かなくていい」「頑張りすぎなくていい」。大切なのは、“自分らしく”、そして“続けられる形”で働くことです。そしてこれは、ただの心の満足の話ではありません。心が穏やかに整えば、最終的には経済的な安定にも確実につながっていきます。心の健康を長く保てる人ほど、安定した仕事に就きやすく、継続的な収入も得られるようになるのです。また、「無理しない働き方」だけでなく、「少しでも成長したい」「やりがいを感じたい」と思う気持ちも大切にしていい。自分の得意なことを少しずつ伸ばしていくこと。派手ではなくても、日々の業務に慣れていく中で「もう少し効率よくやってみよう」と感じるようになること。その積み重ねが、自信や達成感につながります。
あなたが今、どんな状態であっても、立ち止まっていても大丈夫です。「働くこと」には、必ず選択肢があります。障害者転職エージェント「ハッピー」は、あなたのこれからに寄り添い、共に歩んでいきます。頑張らなくても働ける環境、そして、時には“ちょっと頑張りたくなるような場所”も、一緒に探していきましょう。あなたは、ひとりではありません。
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