「人事」から「マーケティング」にならないといけない時代が来た理由 ┃選ぶ立場から選ばれる立場へ。迫られる採用戦略の根本的転換 | 障害者転職エージェント ハッピー


「人事」から「マーケティング」にならないといけない時代が来た理由┃選ぶ立場から選ばれる立場へ。迫られる採用戦略の根本的転換


■採用戦争に負ける企業の共通点:「求人を出しただけで満足する人事」
最近、企業の人事採用責任者からこんなお悩みをよく耳にします。

「求人を出しているのに、応募が来ない」 「ダイレクトリクルーティングをしても返信率が低迷している」 「面接まで進んでも、内定承諾率が著しく低下している」 「せっかく採用した人材が、入社後に活躍しない」

一般採用も、障害者雇用も、同じ課題を抱えています。

特に障害者雇用においては、法定雇用率の達成という外的圧力と、実際の優秀な人材確保という現実のギャップが、多くの企業を悩ませています。昭和から平成初期の採用市場では、採用担当者は確かに「選別者」の立場にありました。求人を掲載すれば応募が集まり、その中から「最適な人材」を選ぶことが、人事の主要な役割でした。

しかし、令和の現在、その前提は根本的に崩壊しています。

求人を出しても応募がない。ダイレクトリクルーティングを実施しても反応率が1%未満。面接に進んだ候補者も、別の企業を選択する。さらに、採用に至ったとしても、入社後の活躍が期待値に達しない。この一連の現象は、単なる「市況の悪化」ではなく、採用戦略そのものの抜本的な転換が必要であることを示唆する警告信号なのです。

では、一体何が変わったのか。それを詳しく解説してまいります。

▼1.なぜ人が集まらなくなったのか:時代背景の構造的変化
答えは、求職市場の根本的な構造転換にあります。

かつての採用市場は「企業が選ぶ、求職者が選ばれる」という非対称な関係でした。企業が優位性を持つ売り手市場が常態化し、人事採用担当者は「選別」に注力すればよい時代だったのです。

しかし、今は異なります。

第一に、日本の就労人口の急速な減少が、構造的な人手不足を生み出しています。 内閣府の推計によれば、2070年には現在の約50%にまで労働人口が落ち込む見通しが示されています。つまり、人そのものが希少資源化し、求職者が「選ぶ側」へシフトした時代が到来したのです。

第二に、AI・DXの進展により、仕事の質そのものが劇的に変わっています。単純反復業務はAIに奪われ、人間に求められるのは「創造性」「問題解決力」「対人関係構築能力」といった高度なスキルです。こうした高度な人材ほど、「給与と待遇だけでは決めない」という判断基準を持つようになります。

第三に、SNS時代の到来により、企業情報の透明性が格段に上昇しています。 「この企業は実際には長時間労働が常態化している」「パワーハラスメントが存在する」「採用情報と実際の待遇が異なる」といった情報は、一瞬にして拡散される時代になりました。企業は、もはや「情報をコントロールする」ことができません。

こうした複合的な背景の中で、求職者は「どこで働くか」を非常に慎重に選ぶようになったのです。

つまり、昔のように「求人を出して応募者の集中を待つ」という受動的な戦略は、根本的に通用しなくなったのです。

▼2.障害者雇用における「売り手市場」の深刻化と人材カテゴリ別の実状
ここで、とりわけ強調する必要があるのが、障害者雇用市場の現状です。

一般採用と同じ課題を抱える一方で、障害者雇用は「さらに深刻な売り手市場」に直面しています。障害者雇用促進法により、一定規模以上の企業は法定雇用率を達成する法的義務があります。2025年現在、民間企業の法定雇用率は2.5%ですが、2026年7月(令和8年7月)には2.7%へ引き上げられる予定です。つまり、企業側の採用ニーズは年々高まる一方で、実際に就職を希望する優秀な障害者の数は、極めて限定的な状況が続いています。

ここで重要なのは、障害者採用市場内でも、人材カテゴリごとに売り手市場の度合いが大きく異なるという点です。身体障害者の優秀層は、特に売り手市場の中でも際立った人気を集めています。物理的な移動や職場環境への配慮で対応可能であり、かつ多くの職務遂行能力を有する身体障害者は、複数の企業から同時に求人を受けることがめずらしくありません。

同様に、若手層の精神障害や発達障害(ADHD、ASD)を持ちながら、高度なスキルを備えた人材は、極めて競争性の高い市場に位置しています。特に、IT分野での専門性や創造的スキルを有する発達障害者は、複数企業からのオファーを比較検討する立場にあります。
さらに注目すべきは、高い知能指数を有する若手ボーダーライン知的障害者の台頭です。かつては就職が困難とされていたこの層が、適切な職務マッチングと支援があれば、高い適応性と学習能力を発揮すると認識されるようになり、採用市場での人気が急速に高まっています。

一方で、より重度の知的障害や身体機能の制限がある方、複合的な障害を有する方については、依然として採用機会が限定的であり、売り手市場の恩恵を受けにくい状況が続いています。つまり、障害者雇用における「売り手市場」とは、実は極めて細分化された市場構造を持っており、企業が採用したい人材層ほど競争が激しく、企業側が求人を出しても応募が集まらないカテゴリほど市場競争が緩いという、逆説的な状況が生み出されているのです。

採用したい優秀な障害者ほど選択肢が豊富であり、「この企業なら長く働き続けられるか」「自分の特性と企業のニーズがマッチしているか」という、非常に高度な評価基準で企業を選別しているのです。

この需給ギャップの中で、どういうことが起こるか。

昔のように『求人を出して候補者の中から選別する』という採用手法では、優秀な障害者人材は次々と他社へ流れていき、結果として『採用基準に達しない人材』を採用せざるを得ない状況が生まれます。

これは単なる「採用数の問題」ではなく、「採用品質の問題」であり、さらには「採用後の定着と活躍」という経営課題に直結します。
売り手市場における障害者採用では、求職者は企業を非常に厳しく評価します。

・「この企業で本当に長く働き続けることができるか」
・「職場の人間関係は、自分の特性を受け入れるものか」
・「実際の職場環境は、採用段階での説明と一致しているか」
・「キャリア開発の道筋が見えるか」

これらの問いに対して、説得力のある答えを提供できない企業からは、優秀な人材は離れていくのです。

昔のマインドセットである『求人を出して応募者の来訪を待つ』では、これからの障害者雇用は成功しません。それどころか、『採用そのものができない』という深刻な事態に直面する企業が、今後増加していくでしょう。

▼3.人事がマーケッター思考を必要とする理由
では、どうすればよいのか。
その答えは、人事がマーケッター的思考を組織に持ち込む必要があるということです。
従来の採用戦略は、以下のような構造でした。

【昔の採用戦略】
=「母集団の大規模形成」→「厳密な選別」→「採用決定」

つまり、できるだけ多くの応募者を集め、その中から「最高の人材」を選ぶ、という戦法です。この戦略が機能していたのは、応募者が「企業を選べない」時代だったからです。
しかし、現在求められるのは、これとは全く異なるアプローチです。

【今の採用戦略】
=「ターゲット求職者の深い理解」→「自社の真の価値の正確な訴求」→「相互理解に基づく入社」

つまり、「どんな人材に来てほしいのか」を明確に定義し、その人たちに対して「自社の本当の魅力」を正確に伝える。そうすることで、ミスマッチのない「納得に基づいた入社」を実現するアプローチです。
これは、本質的にマーケティング思考そのものです。

優れたマーケッターは、次のように考えます。
1.自社にしかない強みや特徴は何か(=求職者にとっての独自価値)
2.どんな求職者にとって、その強みが活かせるのか(=採用したい人材の明確化)
3.その人たちにどう自社の魅力を伝えるか(=効果的な情報発信)
4.どのような接点で情報を届けるか(=採用チャネルの最適化)
5.反応を見て、メッセージや方法を改善し続けるか(=継続的な改善)
人事採用も、現在ではまったく同じロジックで考えるべき時代に突入しているのです。
たとえば、システムエンジニア職を募集している企業を考えてみましょう。

【昔のアプローチ】
「システムエンジニア募集。スキル要件:Java経験3年以上。応募をお待ちしています」

【相互理解を重視したアプローチ】
「弊社は、顧客の経営課題を技術で解決する企業です。単なるコード作成ではなく、顧客のビジネスを理解し、最適なシステムを提案できるエンジニアを求めています。弊社では、そうしたエンジニアが主体的に顧客と向き合い、自分の判断で提案できる環境を用意しています。こうした『技術と経営の接点で活躍したい』と考えるエンジニアと、ぜひ一緒に働きたいです」

後者のアプローチは、圧倒的に「ミスマッチが少ない」のです。なぜなら、「自社の働き方に合う人材」が自ら応募してくるからです。結果として、面接から内定に至るまでのプロセスが、はるかにスムーズになります。

▼4.障害者雇用こそ、マーケッター思考が必須である理由
では、障害者雇用ではどうか。
多くの企業が障害者採用において発信しているメッセージは、次のようなものです。

「弊社では障害のある方を採用しています。各種の配慮を行った制度を用意しており、安心して働ける環境を整備しています」

これだけです。
一方で、本当の意味で「求職者から選ばれる企業」は次のように訴求します。

「弊社では、在宅勤務制度の活用が可能です。ASD特性を持つ社員が、その特性を活かし、細部への高い注意力が求められるデータ検証・分析業務で一貫して高い成果を上げています。また、精神障害のある社員は、主治医との連携を踏まえた通院日の勤務時間調整を行いながら、営業サポート業務で月平均の売上目標達成率が全社平均を上回る実績を保有しています。実際のチーム環境と職務の現場を、社内見学でご体験いただきたいです」

このように、「配慮の有無」ではなく、「実際の職場での活躍の可能性と具体的な成功事例」を見せるのです。

障害者採用においては、配慮制度の充実だけでは十分ではありません。むしろ、優秀な障害者ほど『この環境なら長く働き続けられるか』『自分の特性を活かして成長できるか』という問いに対する、説得力のある答えを求めています。

ここで重要なのは、単なる「マーケティングの巧さ」ではなく、それを支える企業の実質的な魅力と条件の存在です。

▼5.本末転倒を避けるための冷静な認識
ここで、非常に重要な点を指摘しておく必要があります。
マーケッター思考による効果的な情報発信は、それだけでは採用成功を生み出しません。

企業の実質的な魅力、労働条件、職場環境、経営層の障害理解、配慮体制の整備といった、根本的な土台がなければ、いかに人事が頑張っても本末転倒になります。

たとえば、「柔軟な働き方が可能」とメッセージを発信しながら、実際には上司の指示で強制的に出社を求める企業があります。これは単なる「採用に失敗する」のではなく、求職者に「不信感」を与え、ネガティブな評判を拡散させることになります。

同様に、「配慮を大切にしています」と謳いながら、実際には障害者に対する管理職の理解が皆無という企業も少なくありません。この場合、採用直後から離職へのカウントダウンが始まるのです。

したがって、人事がマーケッター思考を発動させるためには、同時に経営層や管理職が『障害者雇用の本質』を理解し、実質的な職場環境の整備に取り組む必要があります。

マーケッター思考は、優れた企業文化と実質的な条件整備の上に、初めて花開くのです。

▼6.採用KPIの進化:内定承諾率と入社後活躍の重要性
採用担当者の皆様ならご存知かもしれませんが、採用KPIは劇的に進化しています。

・昔のKPI:応募数、面接実施数、採用数

・今のKPI:内定承諾率、入社後の定着率、入社後の活躍

すなわち、「いかに多くの人を採用するか」ではなく、「いかに『正しい人』を採用し、その人が活躍し続けるか」という、より高度な指標に移行しているのです。

特に障害者雇用においては、この傾向が顕著です。法定雇用率の達成という数字の達成は、もはや人事評価の最低ラインに過ぎず、本来の評価軸は「採用した障害者がいかに定着し、活躍したか」に移行しています。中には、「入社後3年間の活躍実績」「昇進・昇給の実績」までをシームレスに繋ぐ形で、採用成功を定義する企業も出始めています。つまり、人事のマーケッター思考は、『採用時点での訴求力』だけでなく、『入社後のキャリア開発支援』『定着支援』まで含めた、より広い視点を必要としているのです。これは、従来の「採用部門の役割」という狭い枠を大きく超えた、組織人事戦略全体の転換を意味しています。

▼7.障害者雇用における採用戦略の実装例
では、具体的にはどう進めるのか。
以下では、障害者採用に特化した、マーケッター思考による5つのステップをご紹介します。

▼ステップ①:自社における障害者の活躍状況を言語化する
給与、待遇、そして配慮のための制度だけでなく、「実際に障害者がどう活躍しているか」を具体的に言葉にします。たとえば、「ADHD特性を持つ社員が、その集中力とアイディア力を活かして新規プロジェクトをリード」といった、実際の成功事例です。

▼ステップ②:ターゲット障害者像をセグメントする
「発達障害で、IT分野での専門性を持つ人材」「精神障害のある方で、コミュニケーション能力に長けた人材」など、具体的なペルソナを設定します。

▼ステップ③:障害特性に応じたメッセージング
発達障害とASD、精神障害では、求職者が重視する要素が異なります。それぞれに応じた、響く訴求メッセージを考えます。

▼ステップ④:複数チャネルでの情報発信
障害者雇用専門サイト、一般求人サイト、SNS、障害者支援機関との連携など、複数の接点で情報を届けます。

▼ステップ⑤:社内見学と継続的改善
採用前の社内見学を重視し、候補者の反応を丹念に収集します。面接の質問内容、企業説明のポイント、職場環境の見せ方を継続的に改善します。

■対等性の尊重:時代が求める人事姿勢
ここで強調しておきたいのは、マーケッター思考が『求職者に媚びる』ことと同義ではないということです。

むしろ、その逆です。
自社の本当の価値を理解し、「我が社はこういう企業です。我が社の価値観に共感し、障害特性を活かしながら成長したいと考える方と、一緒に働きたい」と、堂々と言い切ること。それが、本来のマーケッター思考です。
ただし、昔の人事採用が持っていた「採用する側の優位性」「選別者としての高ぶり」は、完全に時代遅れになったということは、強調する必要があります。

【昔の人事姿勢】
「採用基準を満たす者のみ受け入れる」という一方的な評価基準

【今の人事姿勢】
「相互の価値観を理解し、対等な関係を築きながら、共に成長できるパートナーを探す」という対話的姿勢

この心理的・姿勢的な転換が、求職者の感受性に大きく影響します。
特に障害者採用においては、採用側の「誠実さ」「対等性への配慮」が、顕著に採用成功に影響します。
なぜなら、障害者にとって「職場との関係構築」は、仕事の成果と同等かそれ以上に重要だからです。

■人事の役割は変わった。それは経営課題そのもの
結論として、人事採用の役割は根本的に変わりました。

【昔】
多くの応募者の中から、企業にとって「最適な人材」を選別する

【今】
「この企業で活躍したい」と求職者が主体的に選んでくる状況をつくり出す

しかし、採用という根本的な使命—「人と組織のマッチング」—は変わっていません。その実現手段が「選ぶ側」から「選ばれる側」へシフトしたのです。特に障害者雇用においては、このマインドシフトができるかどうかで、「採用成功」と「採用困難」が劇的に分かれます。昔のやり方では、これからの障害者雇用は成功しません。それどころか、「採用そのものができない」という企業が、今後増加していくでしょう。

一方で、マーケッター思考と実質的な職場環境整備を両立させた人事は、売り手市場の中でも「優秀な障害者人材」を採用できます。なぜなら、その企業の価値観と誠実さが、求職者に伝わるからです。採用KPIが『応募数』から『内定承諾率』『入社後の定着』へシフトしている現在、人事の役割は『採用部門の担当者』という限定的な位置付けを超えて、『企業の経営課題そのもの』になっているのです。

採用戦略の転換は、単なる「採用部門の工夫」ではなく、企業全体の価値観と体制の転換を要求しています。その転換を主導できる人事こそが、これからの組織に求められる人材なのです。

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※本コラムの内容は2025年12月時点の情報に基づいています。あなたの特性を活かしたキャリアについてのご相談は、お気軽に上記窓口までお問い合わせください。あなたの新しい物語が始まることを、心から楽しみにしています。