「過去は変えられないけど未来は変えられる」という言葉がございますが、私は「未来によって過去も変えられる」と思っております。もう働けないとか働くのは辛いという過去があっても、転職先に深い理解があって働きやすい環境があった場合、辛かった過去の記憶は和らぎます。だから私は「未来によって過去は変えられる」と思っていて、今まで働くことが辛くても障害者手帳があることで、辛くない未来が待っている可能性があって、その未来があることで、過去の辛い記憶も薄れていくと信じております。障害者手帳があることは、それ自体が「希望」になります。
松山純子様 YORISOU社会保険労務士法人ホームページ
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略歴:短大卒業後、14年間福祉施設(身体・知的・精神)で人事総務及びケースワーカー業務を経験、平成18年6月に松山純子社会保険労務士事務所を開業。平成29年10月に法人化。「YORISOU社会保険労務士法人」としてスタート。メディア取材、新聞、雑誌への寄稿、全国各地で年間50本以上の講演。
Qはじめに社会保険労務士さんのお仕事内容をご存知ない方々へ具体的にどんなお仕事をなさっているのか教えて頂けないでしょうか。
A
一言で社会保険労務士のお仕事をお伝えすると、私たちは「社外に存在する人事部」というイメージです。人が妊娠してお腹の中にいる時は産休、亡くなった後は遺族年金、このように人生のポイント、ポイントでお仕事をさせて頂いております。あとは社長さんのお悩み相談、各種法改正に関しての手続きや情報発信、企業及び個人からの労働紛争のご相談等も承っております。「働く」というキーワード全般に携わっているのが社労士のお仕事になります。
QYORISOU社会保険労務士法人様の特長を教えて下さい。
A
通常の社労士業務のような顧問業務と、もうひとつは障害年金がございます。顧問業務は企業様の事務的な作業だけでなく、お悩みもお伺いすることもございます。障害年金に関しては、その中の多くは、働き辛さを抱えているので、「働くこと」というトピックに行き着きます。そうすると障害年金で教えてくださる個人のお客様が障害の有無に関わらず、働いている従業員さんの生の声を届けてくださいます。多くの社労士事務所は障害年金に関しては、あまり積極的にやっていないので、ある意味、雇用側の声しか聞けていないのですが、障害年金は私たちが、生の従業員さんの声を聞くことが出来るのです。
そうすると色々なことがわかってきて、法律だけでは解決できないことが世の中にはたくさんあって、就業規則だけでは解決できないこともあって、私は経営者と障害のある方は、一緒だとある時に思いました。その共通している部分は、「法律では解決出来ない、回答のない問いに向き合い続けている」ということでした。勿論、その部分は社労士だけでは解決できないこともあるので、例えば障害者の就労移行支援をはじめ、その分野の専門家と連携しながら解決に向けて一緒に考えられるところもYORISOU社会保険労務士法人の特長かも知れません。
Q経営者という側面からのお話しですが、2006年6月に独立開業され、2017年10月に法人化、ここ数年でオフィスの移転や従業員の増員など事業規模が着実に成長している印象ですが、その辺りは如何でしょうか。
A
もしかしたら確かに珍しくて社労士事務所に限らず、士業は1人または2人、あとは従業員数がとても多い社労士事務所は、何千人という規模の給与計算をしているところがあります。うちの場合、実は全然そういう類いのお仕事もないです。手続き関係の量もめちゃくちゃあるかって言ったら、そこまで給与計算とかもないのが本当のところです。そういった状況の中で経営者として、そこを増やしていこうとはあまり思いませんでした。正直、どうすればいいのか正解がわかりませんでした(笑)
ただ抽象的な表現ですが、やっていくうちに見えてくるものや課題が沢山ありました。そこをひとつひとつ真っ直ぐに向き合い続けてきた感じです。最初から社労士事務所で何人雇用するとか、どのくらいの売上を目指すということは考えておりませんでした。ただぼんやりですが、一人ではやらないことだけは思っておりました。その理由がふたつあって、ひとつは私の好きな言葉で「早く行きたければ一人で行きなさい」、そして「遠くに行きたければ、みんなで行きなさい」という言葉があります。やっぱり一人だと遠くには行けないですが、これがみんなの力が集結すると一人では成し得ないことができます。ですから開業当初も現在も何名の仲間でやっていくことがベストかどうか分かりませんが、私の目指す未来は、ひとりでは到達出来ないことは明らかだったので徐々に従業員を増やしていきました。
もうひとつ一人では事業をやっていかないと思っていた理由は、これは非常に現実的なお話しですが、一人で給与計算、一人で障害年金、一人で就業規則みたいな体制ですと私が交通事故に遭いました、私が病気になりましたという時にバックアップメンバーするメンバーがいないと皆様へご迷惑を掛けてしまうからです。なるべく、それを早く回避したいという気持ちがあった為、早めに雇用が出来るように頑張ったのは事実です。
そして一人や少数でやっていた当時は、何かあったときに守ってくれる外部の社労士事務所と連携しておりました。障害年金だったらこの先生、このお仕事はこの先生にお願いするとか、なるべく、ご依頼を受けた仕事を時間的なロスなく、きちんとお戻し出来るように社内外の体制を整えておりました。おかげさまで、現在は従業員数も増えて私が何かあったとしてもお客様にご迷惑を掛けない体制を構築しております。あと成長出来た背景に純粋に応援してくれる方、サポートしてくれる方が少しずつ増えていったということも影響しているかも知れません。本当に感謝しております。
Q YORISOU社会保険労務士法人様は、全国屈指の障害年金の手続き実績があり、長年ぶれずに松山様のご活動は続いておりますが、その情熱を支えているものは一体何でしょうか。
Aこのエピソードは、他のインタビュー記事でも出てくるかも知れませんが、もともと私は福祉施設の職員でした。そこでは700名の従業員のうちに半数以上の350名以上が重度の身体障害、精神障害、知的障害の混合施設で、皆様とても楽しく、働く喜びを感じながら働いているところが印象的で心が温まりました。ただ平成18年に社労士になって一番初めにびっくりしたのが、民間企業では今より更に両立支援とか普通に働くことのハードルがもの凄く高かった時代で、とにかく元気じゃないと働かせてもらえない時代でした。その当時から福祉施設では、体調に合わせた労働時間でお仕事を進めていくことが認められておりましたが、社労士になって初めてリアルな民間企業の実態を知ります。私は福祉施設しか知らなかったこともあり、具合が悪い人や仕事ができない身体や心の状態の方は、もう辞めてもらいたいという風潮がありました。勿論、今はそんな時代じゃないですが、その当時は、働き方を少し変えたらみんな働けるのに世の中は冷たいと素直に想いました。障害年金は、自分の体調に合わせて無理なく短時間で働くことを実現させてくれるかけがえのないものであり、こうした問題を抱えている方の人生を一歩前に進めてくれる素敵な存在です。このお手伝いをさせて頂いていることは、私にとって喜びの何ものにも代え難いものです。そして、これが私を突き動かし続けるエネルギーです。
QYORISOU社会保険労務士法人様は、障害年金以外で「障害者の働く」ということに関して、どのような関わり合いを持っているのでしょうか。
A社労士事務所としてユニークな取り組みとして、就労移行支援施設さんから障害のある方の実習生の受け入れを積極的に行なっております。2023年4月からもまた数名いらっしゃりますが、実習生を受け入れている理由としては、通所している方のうち多くは発達障害がある方々です。発達障害があると職場でコミュニケーションが苦手だったり馴染めなかったりして、一度働くことを諦めてしまった方が多くいらっしゃいます。でもやっぱり働きたいという気持ちがあるから勇気を出して就労移行支援施設に通っている方々を私たちが受け入れさせて頂くことで、「もう一度働く」という希望を手に入れて「働くことは楽しい!」という気持ちを少しでも感じてもらいたいと考えているからです。
もうひとつ障害のある方の実習生を受け入れている理由として、企業様の障害者雇用のお話に向き合うと、どうしても法律の話になりがちです。でも法律じゃ世の中解決できないことがいっぱいあって、回答のない問いに向き合い続けることの連続ですが、就労移行支援施設から実習生を受け入れることで、実際に一緒に働くことをスタッフが体感出来ます。そうすると企業様から障害者雇用をどのようにしたらいいのかわからない時に、スタッフは経験しているので、より具体的且つ効果的に企業様へアドバイスが出来るようになるのです。
例えば私たちYORISOU社会保険労務士法人も実習で障害者の方を受け入れているけど、とても助かっております、とお伝え出来るようになります。この「希望」を企業さんにお伝えしてあげることが受け入れの最大のメリットです。私は企業様が一歩前に進むことは、ひとつの社労士事務所の役割だと考えております。そしてスタッフが障害のある方も戦力になることを体感していると言葉に想いが乗り、その想いが乗れば相手の心も動きます。こういった好循環を生み出す為、実習生の受け入れを長く続けさせて頂いております。あとスタッフには、障害がある方と接する際、まず「目の前の人のことを知ること」、そして、「その行動には理由があるかもしれない」というふたつの視点で接するようにお願いしております。
Q障害がある方とご一緒に働く際、気を付けていることがあれば教えて下さい。
Aそうですね、ふたつございます。ひとつ目は、私たちが障害特性きちんと知ること、そして一緒に働く障害者の方の心理的安全性を作ることを意識しております。発達障害の方は、十分な心理的安全性があれば、発達障害の特性が出ないことが多いです。心理的安全性があることで、とてもスムースなやり取りになる為、いつも心掛けております。
Q障害年金に関してですが、障害者手帳を取得すれば障害年金も取得出来るのでしょうか。
A
まず多くの方は障害者手帳がないと障害年金を貰えないと考えてしまっておりますが、そうではありません。障害者手帳がなくても障害年金は請求できるのです。これは全く別物なので、切り分けて考えて下さい。もう一つの誤解されている方が多い印象ですが、障害者手帳の対象者の方が多いと思っているかも知れませんが、障害年金の方が対象者は多いです。そうすると障害年金には該当するけれど、障害者手帳には該当しないという人が沢山いらっしゃいます。この事実を意外と知らない方が多いので、この機会にお伝えさせて頂きました。
例えば、うちの事務所であった障害者手帳はないけど、障害年金を受給できたケースとして、重い偏頭痛がございます。障害者手帳は身体、精神、知的と3種類ありますが、身体で言うと身体に障害があり尚且つ日常生活が大変なことが認定要件ですが、そもそも障害年金は日常生活が大変かどうかということで判断するので、重い偏頭痛というもの自体は身体障害ではないけれども日常生活が大変なので障害年金は出ます。そういった意味では障害年金の対象者の方が圧倒的に多いです。あとは、がん(悪性腫瘍)でも障害年金が出る時があります。例えば抗がん剤でがんは消失しました、でも抗がん剤の副作用が強く、日常生活が大変な状況が続いた場合、障害年金が出る場合がございます。このように障害者手帳と障害年金は別のかたちのものになります。
Q障害年金の等級数と障害者手帳の等級数と比例するものなのでしょうか。
A結論、多少参考になる程度です。必ずしも障害年金の等級数と障害者手帳の等級数は比例しません。精神障害の方で、手帳が3級だから、障害年金2級には該当しないと思って諦める方が多いです。なぜかというと国民年金は1級と2級しかないので、自分の初診日が国民年金だから該当しないという理由で諦めてしまうケースが多いです。障害基礎年金は2級までしかないので、私は手帳3級だから該当しないと思い込んでしまう方を見てきました。ちなみに私の事務所の場合ですが、精神の障害者手帳が3級で、年金は2級という人の方が圧倒的に多いです。ですから、必ずしも等級数は比例しないので、お一人で悩まず、専門家にご相談してみることをお勧め致します。
Q障害年金を取得する上で大切なポイントになってくる箇所はどんなところでしょうか。
A障害年金を受給するためには3つの要件があります。まず一つ目は初診日を確定すること。二つ目が保険料納付要件です。そして三つ目が一番大事なところで、障害年金に該当する状態であるかどうかです。今回は、ここを少し深掘りさせて頂きます。まず障害年金に該当するかどうかは、⑴日常生活の大変さ、⑵ 就労の大変さ、というふたつの軸があります。今度は、障害の種類を大きく、ふたつに分けます。一つ目は「身体機能障害」、内臓とか耳とか手足とかですね。二つ目は、「長期の療養を必要とする状態」、これは例えば、うつ病、がん(悪性腫瘍)、難病などになります。一つ目の身体機能に関しては、そもそも日常生活が大変で運動機能等の回復が見込めないこともある為、障害年金の受給決定はされやすく、年金を貰え続けられることも多いです。
でも二つ目は少し複雑です。長期の療養を要する人と言うのは、一番わかりやすいのが、うつ病になります。例えばひとつ例を挙げると食事です。食事の準備ができますかということですが、うつ病は、億劫さが出るので食事の準備ができないとか、外に買い物に行けないこともよく起こります。ただ就労するということは億劫さが軽減している可能性があります。億劫さが軽減すると日常生活が向上するので、この長期の療養を必要とする状態の人は、就労との関係性がもの凄く出てきます。一般的には日常生活が向上したならば、就労は可能だと思われがちですが、多くの人は日常生活が向上したから就労したのではなくて、日常生活は向上していないけれど、生活があるから就労せざるを得ないということが実態です。
ですから、この長期の療養を必要とする状態の人たちについては、もし就労をしていても日常生活が向上していなければ、それを主治医にきちんと伝えて診断書に具体的に細かく盛り込む必要があります。また病歴申立書、これは日本年金機構が唯一自分の病状を伝えることができるものになりますが、この病歴申立書に就労の大変さや必要な配慮などもしっかり書いていくことが障害年金を取得するうえで大切なポイントになります。
Q正式な請求から結果が出るまで、おおよそどのくらいの期間が掛かるものなのでしょうか。
A現在、日本年金機構は、障害年金の請求から結果まで、おおよそ3ヶ月〜3ヶ月半の時間を要するとお知らせしております。もし障害年金の取得を検討している場合、時間的に余裕を持って準備することが心の余裕にもなりますので、計画的に進めることをお勧めさせて頂きます。
Q 松山様が障害年金の依頼者の方とお話しする際、気を付けているところがあれば、どういったところでしょうか。
A面談中は、ご本人様とご家族がいらっしゃった時、必ずご本人様の目を見て説明させて頂くことを意識しおります。あと初回面談は、結構色々なことをお伺いしながら、今後の方針を決めていきます。そのすべての内容を議事録として残して面談終了後、依頼者にメールでご送付しております。そうすると依頼者様も後々それを見て次に何をやればいいのかということを文字ベースで確認出来るようになります。
あとは精神障害がある方とかが多いかも知れませんが、長い間具合が悪い場合、どこまで自分が出来ているのか出来ていないのか、よくわからなくなってしまうことがあります。ただ障害年金は、日常生活の大変さが大きな軸になりますので、このように出来ているのか出来ていないのか、よく分からなくなってしまった方には、具体的な事例を伝えながらヒアリングさせてもらっております。
例えば発達障害がある方へお困り事はありますかと聞くと“ないです”と、ご返答する方がいらっしゃいます。その時は話しの切り口を変えて、では上司から口頭で説明を聞いたときに、その場では“わかりました”と返事はしたものの、自分の席に着いた頃には忘れてしまったという経験をよく耳にします。このように私の頭の中に当事者の生の声が沢山あるので、そこから具体例をひとつひとつ引き出しながら、日常生活の大変さの有無を確認していきます。
Q松山様個人のキャリアに迫るご質問ですが、短大卒業後、社会福祉法人から社会保険労務士の資格取得経緯や独立に至った背景を教えて頂けないでしょうか。
A短大卒業後、長年社会福祉法人に勤めておりましたが、体調を崩してしまい退職。正式に社労士の資格を取ったのは退職してからです。もともと私は転職とかも考えてなくて、ひとつのことをコツコツと長く続けてきたタイプでした。資格取得後も開業する予定はなく、社労士事務所に勤める選択肢もなく(笑)社長と顔の見える規模感の会社が好きなので、そういった一般事業会社で総務や人事として働きたいと漠然と思っておりました。そんなスタンスで療養していた時に、起業した元上司が退職したことを知って、私の自宅に電話を掛けてきました。そうしたら是非、うちの総務として勤めてみないかというオファーでした。そこで私が「はい、よろしくお願いします!」と言ったら、たぶん私は、その上司の会社に一生いたと思います。先ほどもお伝えしましたが、環境に馴染みやすい性格なので、長くお世話になっていたと思います。
ただなぜか「勤めさせて下さい!」ではなく、「顧問にしてください!」と言いました(笑) そうしたら二つ返事で社長が「いいよ」と言ってくれたのです。そこから開業準備を始めて、社労士としてのキャリアがスタートしました。ですから人脈や戦略も無く、突然のご縁をきっかけに開業したのが、リアルなストーリーです。ただゼロスタートではなく、既に顧問先がいらっしゃったことは、本当に助かりました。それも長年、私のことを知っている方が顧問先として最初から側に居てくれたことは心強かったです。また人間なので感情が伝播してしまいますが、開業時から売り上げの確保があった為、穏やかな気持ちでお仕事に臨めたことも、いま思えば上手くいった要因かも知れません。
Q 独立開業してから女性経営者として大変なことも多々あったと思いますが、そのピンチや困難を乗り越えてきた秘訣を教えて下さい。
A実は、語弊があるかも知れませんが、特に大変だと思ったことはないです。そんなこと言うと、変な人だと思われるかも知れませんが(笑)私が精神的に強いわけでもないですが、そこまでピンチや困難を大きな脅威に感じないところがあるのかも知れません。ただ純粋にやりたいことを毎日やらせてもらって、新たに見えたものがあれば、それに向けてチャレンジする。その繰り返しで、今日まで歩んできました。当然、経営者として将来のことは多少なりとも考えますが、どちらかと言うと、目の前のお仕事、目の前にいる方、そして今日一日を全力で生きることを意識しております。
Q松山様が掲げる「社会とのつながりが人を元気にしてくれる」という言葉に私も共感している一人ですが、こうした想いに至ったのは、なぜでしょうか。
A開業前に私が14年間福祉施設で働いていた中で、今でも忘れられない出来事なのですが、その施設に筋ジストロフィーを患っていた男性がおりました。最初の頃は、車椅子に乗っていたのですが、徐々に病気が進行してしまい筋力が衰え、手動の車椅子から電動車椅子に変わりました。しばらくすると、その操作も難しくなってしまいました。会社なので、仕事が続けられなくなると退職するという選択肢しか残っておりません。ご本人も、そのことを十分に理解しておりました。ところが彼は、その状況でこう言いました。「会社に籍だけは置いておいてください」働いてなくても従業員としての名前が残っているだけで、自分が存在しているということを周りの方に知ってもらうことができるからという理由でした。
私たちは、当たり前のように日々働いていると忘れがちですが、社会とのつながりの中で、自分の存在価値を認識できるのかも知れません。働くことは、そのつながりを最も感じられるものになります。仕事をするのは、収入を得るためだけではなく、収入以上に生きていく為に必要なものを得ているものだと気づいた時、あらためて障害年金の大切さを知りました。今ではお仕事の傍ら、全国各地への講演依頼や出張面談などで飛び回る日々ですが、忙しい毎日の中でも、時々ふと筋ジストロフィーを患っていた彼のことを思い出します。「籍だけは置いておいてください」彼の言葉に込められた深いメッセージは今でも胸に刺さり、私の行動指針になっております。
Q障害年金の取得手続きに関して沢山のエピソードをお持ちだと思いますが、もし思い出深いエピソードがあれば、ひとつ教えて頂けないでしょうか。
A例えば障害年金が受給出来たことで、高額な治療費を障害年金で工面出来たお話とか、お母様に日頃の感謝を込めてプレゼントをあげた嬉しいエピソードなどがございます。ただ嬉しいことだけでなく、考えさせられるきっかけになるエピソードもございます。そのひとつに社会保険労務士として開業間もない頃、ある若い子が一人で相談に来ました。その当時の私は、まだ障害年金は、しっかり年金証書を届けて所得保障をすることが、私の仕事だと思っていた時期でした。
そのくらいまだ狭い範囲でしか周囲が見えない時期でしたが、そのときに病歴・就労状況等申立書を書かないといけなかったのですが、その当時のことをヒアリングしたら、急性期で記憶が曖昧だった為、今度お父さんかお母さんと一緒に来て下さいとお伝えしたら、彼は無理だと思うと元気のない返事でした。私は、その方の言葉を感じてあげられなかったのです。それでご両親がいらっしゃる時間帯に夜遅くでもいいからお電話させて欲しいということを伝えました。そうしたら彼は、わかりました、と気乗りしない雰囲気でしたが、それでも私は気付けなかったのです。それから少し時間が経ったある日の夜8時半くらいにお電話を差し上げたら、その方が出て、お父さんいらっしゃいますかとお伝えしたら、その方は変わらず、やっぱり気乗りしないけど、ちょっと待って下さい、と言って社労士から電話だよ!とお父さんに伝えた結果、返ってきた言葉は、“いまDVDを見ているから後にしてくれ!”という反応でした。私は、このお父さんの言葉に衝撃を受けましたが、それ以上に、この方に対して、なんていう言葉を聞かせてしまったのかという自責の念に駆られました。今でもこの出来事を思い出す度に胸が痛くなります。
この方は、幸いにも障害年金の支給決定や就職活動も上手くいきましたが、この経験から家族が百あれば百通りの背景や事情があることを知り、自分の軸を一度外して臨まないといけないということを学びました。繰り返しになりますが、色々な家庭や親子関係が存在して、その浮き沈みの中で障害年金まで至っていることを知ることで、障害年金に携わる意味を教えてくれたような気がしております。障害年金がなかったら、今でも自分の枠だけで、もしかしたらお話を聞いたり接したりしていたかも知れないので、これは仕事冥利に尽きます。
Q最近は、障害年金のみならず、障害者雇用コンサルも展開しているようですが、具体的には、どういったサービスを企業様へ提供されているのでしょうか。また一般事業会社が展開している同様のサービスと比較してYORISOU社会保険労務士法人様の強みはどういったところでしょうか。
A他の障害者雇用コンサルを展開している企業様との差別化としては、まず社労士事務所なので、労基法などの法律観点から雇用保険などのアドバイスが出来るところです。休職から復職の際も社会保障制度を利用しながら的確なアドバイスや助言が出来るところは、一般企業と比べると社労士事務所だからこそ、最新の各種法制度にも熟知している為、効果的なサポートが可能です。とは言え、先程もお伝えした通り、法律だけでは解決出来ないこと、相手が生身の人間ですので、理屈だけでは解決が出来ないことがありますが、私達は日頃、障害年金に携わっておりますので、当事者の本当の困りごとを沢山聞いております。この生の声を言語化して企業様にお伝えしながら安定雇用に繋げられることも強みになります。
あとは障害者雇用で入社した社員向けにYORISOU社会保険労務士法人が外部相談機関として月に一回程面談をさせて頂くこともございます。既にお伝え致しましたが障害者の方は、漠然と不安を抱えながらお仕事をなさっている方が多い為、その不安を解消するコミュニケーションを図りながら、時に合理的配慮以外で甘えも見られる方もおりますので、その際は、配慮はするけど、遠慮はしないという正しい障害者雇用の在り方を雇用主に変わってお伝えすることもあります。いずれにしろ貴重な労働時間を定着支援に充ててくれる企業様のホスピタリティーと外部相談機関へ報酬を与えながらでも障害者雇用を守っていくという姿に感銘を受けます。
Q「障害者雇用を成功させる」為に、企業様へアドバイスがあれば教えて下さい。特に今後大切になってくる要素があれば、ご教示頂けると幸いです。
A障害者雇用を成功させる為のポイントを3つ挙げさせて頂きます。まずは人事制度面で「短時間でも働ける雇用」にしていくことをお勧めさせて頂きます。例えば体調を崩した時、そろそろ限界だと思った時に1ヶ月でも2ヶ月でも短時間で働けるとか体調を整える時間の猶予を与えられるとか、いま目の前にいる方が一番パフォーマンスを出せる時間数や一番パフォーマンスを出せる働き方を柔軟に考えてあげること、そして体調不良時や従業員からSOSが出た時は、なるべく早く寄り添って解決することも大切です。
次に「業務切り出し」が挙げられます。当然、障害特性に合った業務切り出しを行うことが基本の基なのですが、加えて重要なポイントは、「業務切り出し方法」です。この人に何をしてもらおうという概念を一度外して、この人には、こういう仕事と、かっちり当てはめるではなく、まず緊急性はあまりないけど重要度の高いもの、もしくは私達にとって負荷が掛かっているもので、この業務をやってくれたら主業務に集中できるもの、これをやってもらうと助かるというものを会社全体で集めます。
弊事務所の場合、PDF作業が該当し、緊急性はないのですが、重要度の高いものです。例えば、そのような性質の業務が50個あるとしたら、その中にある最適な業務を障害者の方に自主的に探してもらうイメージです。そうすると、ご用意した50個の中から7個目に障害特性にぴったり当てはまると、これはできる!となります。その結果、今まで出来なかった緊急性がなく置きっぱなしだった業務がどんどん進みます。そこに“ありがとう”と“感謝”が生まれます。そして障害のある方が働く喜びを手に入れることが出来ます。
もうひとつスムースに業務切り出しを行う為に工夫していることは、障害がある方へ「ひとりの作業が良い?みんなでの作業の方がいい?パソコンはあった方がいい?パソコンがない方がいい?マニュアルがあった方がいい?マニュアルがない方がいい?」とお伺いすることで、ご本人様の障害特性や性格特性、そしてどういった業務が合うかどうか全体的な就業イメージが浮かんできます。このように出来るだけわかりやすく、イメージしやすい会話を行うこともポイントです。
最後は障害者雇用を成功させる為には、「心理的安全性の確保」が必要です。もし働いている時に具合が悪いと言っても雇用を切られない雰囲気、家族や親しい友人とまで言わなくても本音が吐露できる空気感だと定着率は上がります。そして、こういった温もりのある企業様で働いている障害のある方のトラブルは、聞いたことはありません。
Q障害者だけではなく、病気、育児、介護等で働くことに制約のある方々の継続雇用に関して大切になってくるところは、どんなところでしょうか。企業側視点で解説して頂けると有り難いです。
Aこういう働くことに制限を持っている方々を継続雇用することは、長期的に見ると組織の強みに変わっていきます。小さなお子様がいる方は、急に子供が発熱することもあり、急に具合が悪くなることも日常的にあります。このような単発的且つ突発的な出来事に対応できる組織になると、自然と社内連携が生まれ、在宅勤務の導入やマニュアル化の促進も会社を一歩前に進めることに役立ちます。
また副産物として“おせっかい文化”が生まれるのも特徴です。社会保険労務士というお仕事柄、経営者さんやマネージメント層の方とお話しすることもありますが、従業員が自主的に働いてくれないというお悩みをお持ちの方が多いです。どうやったら当事者意識を持って能動的に動いてくれるかということが共通の課題です。この課題を解消する為、社内に“おせっかい文化”が必要になってきます。人はおせっかいをすると自然と身体が動くので、病気、育児、介護の人が一緒に働くことで、このおせっかい文化すなわち会社の一体感が醸成されやすくなります。この”おせっかい文化”
は、長期的に見ると必ず会社に利益をもたらしてくれるものです。
実はYORISOU社会保険労務士法人でも数年前に従業員が妊娠。妊娠した段階で、もともとの年次有給休暇の最小取得単位は半日でしたが、彼女の為に一時間単位で利用可能に変えました。その理由は悪阻や気分が悪い時に一時間でも遅く出社することで休憩を取れるだけでなく、ラッシュアワーを避けることも出来て、安心して勤務出来るようになるからです。この心理的安全性の確保又は心理的な居場所感の確保は、妊娠していない方にとっても体調不良時やプライベートな事情でやむを得ず会社をお休みする時には、お休みを取りやすくなりますので、結局は、すべての従業員が恩恵を受けることが出来ます。その結果、会社が一歩前に進むのです。
Q少しご質問から逸れますが、お休みの日はどういったお時間の過ごし方をしておりますか?もしストレス発散方法や趣味がございましたら併せて教えて下さい。
A開業前は、スキューバーダイビングしていた頃もございましたが、最近の週末は、社会保険労務士会関連の登壇が多いです。ちなみに今週は兵庫県で来週は秋田県まで講演活動に行きます。社会保険労務士会以外の登壇も多く、毎月あるわけではないですが、昨日は精神科医とご一緒に就労に関してのトピックでお話しさせて頂く機会を頂戴して、その前は障害者雇用専門のコンサルティング会社様との登壇がございました。ですから休みがあるからといって家でのんびり過ごすことは殆どなく、お友達や親と食事に出掛けたりするので、正直、休日にゆっくりすることはあんまりないです。あとは、障害のある方の親の会に参加することもございます。こうした講演活動に招かれることは大変光栄なことで、新たな学びや刺激を受ける時が多いので、とても感謝しております。
Q最後に、これから障害者手帳の取得を検討中の方、現在、障害者手帳を保持しながら就労へチャレンジしようと思っている方へ松山様からメッセージを頂けないでしょうか。
A現在、障害者手帳の取得をご検討している方、もしくは障害者手帳の取得間もない方にとっては、いろいろな葛藤を抱えていると思いますが、手帳を取得することで自分からお伝えし辛いこと、例えば業務で助けて欲しい時、体調が悪い時などは、より周囲が気に留めてくれるようになりますので、確実に働きやすくなりますね。もともと障害者手帳を取得した方々は、人一倍頑張ってきた方が多く、未だ頑張ってしまう癖が残っているので、手帳が無い働き方では、以前のように一人で頑張っていくという選択肢しかない状況になってしまいます。しかし、障害者手帳を保持して障害者雇用というかたちで入社すれば、今までのように一人で頑張り続けなくても良いのです。
私個人の意見ですが、働く喜びを感じるには、働く期間が長い方が幸せを感じやすいと思います。この長く働くということに焦点を当てた時に、なるべく自分のことを知ってくれる人、例えば薬が変わって、いま薬の副作用が出ているから、一週間限定で9時出社じゃなくて10時出社にして欲しいと言える環境があるかないかだけで、その会社で長く働けるかどうかは変わります。また、こうしたことは、やはり障害者手帳があることでお伝えしやすくなりますし、周りの理解も得やすくなるでしょう。素直な気持ちを周囲にお伝えできるという優しい環境が長期就業に繋がっていきます。
最後に私から皆様へメッセージですが、インターネット等でよく散見される言葉で「過去は変えられないけど未来は変えられる」という言葉がございますが、私は「未来によって過去も変えられる」と思っております。もう働けないとか働くのは辛いという過去があっても、転職先に深い理解があって働きやすい環境があった場合、辛かった過去の記憶は和らぎます。だから私は「未来によって過去は変えられる」と思っていて、今まで働くことが辛くても障害者手帳があることで、辛くない未来が待っている可能性があって、その未来があることで、過去の辛い記憶も薄れていくと信じております。障害者手帳があることは、それ自体が「希望」になります。皆様のかけがえのない職業人生を健やかに過ごせることを心から願っております。本日は、有難うございました。
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